研究課題
位相ゆらぎ補償光学系の技術開発と天文・惑星科学および生物学・医学分野への応用 活動銀河核の内部構造、形成・進化および母銀河との相互作用の解明
キーワード
光・赤外線天文学、補償光学、波面測定、活動銀河核
研究の背景
(補償光学系開発) 地上から天体観測は、地球大気の屈折率ゆらぎによって天体からの光の波面が乱され、天 体像の空間分解能が劣化するという問題がある。近年、この問題を克服する技術として、 歪んだ波面をリアルタイムで補正する波面補償光学(Adaptive Optics; AO)装置が実用 化され、望遠鏡の回折限界に近い高い分解能を得ることが可能となってきた。口径8-10m クラスの大望遠鏡においては、補償光学装置はすでに標準装備となっており、宇宙初期の 銀河の研究や太陽系外惑星探査などにおいて、多くの科学的成果を上げている。しかし、 従来の天文用補償光学系は、補正される視野が狭い、惑星観測では波面補償用の参照光源 が見つからない、といった問題がある。
(活動銀河核の観測研究) 銀河には、その中心に存在する超大質量ブラックホールへの物質の降着時の重力エネルギ ーにより非常にコンパクトな領域で高い活動性を示すものが持つものがあり、活動銀河核 と呼ばれている。最近、活動銀河核はその強い放射や噴き出す電波ジェットにより銀河の 星間ガスに影響を与えて星形成を妨げるなど、銀河の進化に重要な役割を果たしているこ とが明らかになりつつあるが、その内部構造、形成・進化、電波ジェットの形成メカニズムや活動銀河核の電波強度が強いものと弱いものとに不連続に分かれている原因など、活 動銀河核には多くの未解明の問題がある。
研究のねらい
(補償光学系開発) 現在、補償光学系の広視野化のために、大気ゆらぎの構造を3次元的に測定・推定(トモ グラフィー推定)し、ゆらぎを3次元的に補正する補償光学系の研究が世界的に進められ ている。また、太陽観測用補償光学系の波面測定技術を応用すれば、惑星など空間的に広 がった天体自身も波面参照光源とすることができる。本研究のねらいは、これら広視野化 技術、波面測定技術を発展させることにより、惑星観測や中小口径望遠鏡への搭載など、 これまで補償光学系を利用できていない分野・領域へ補償光学系の適用を広げることであ る。さらには、最近発展しつつある、補償光学系を用いた生体ライブイメージング、眼底 イメージングなど生物学、医学分野への応用も研究のねらいである。
(活動銀河核の観測研究) 活動銀河核は非常に遠方かつコンパクトな天体のため、現在の観測技術では、その内部構 造を撮像観測によって直接解明するにはいたっていない。本研究のねらいは、時間変動モ ニターや偏光、さらには補償光学系による高分解能撮像などの観測手法を用いて、活動銀 河核の内部構造を調べ、その形成・進化や母銀河との相互作用などの解明に迫ることである。
目標と戦略
(補償光学系開発) 本研究室では、1-2mクラス望遠鏡へ搭載する惑星観測用大気ゆらぎ補償光学系をの開発を 行っている。本補償光学系は、惑星表面の複数点を波面測定の参照光源として用い、2枚 の可変形鏡を用いた多層共役補償光学系で、可視光0.5μmより長波長側において、木星サ イズ程度の視野(50秒角) に渡って、0.4秒角の分解能の達成を目標としている。さらに は、新しい方式であるゆらぎ層指向型補償光学系の開発を目指した波面測定技術の開発と その応用研究を行う。
(活動銀河核の観測研究) 比較的近傍の活動銀河核の測光・分光時間変動モニター観測を行い、変動の時間スケール や変動の波長間・時間相関などの解析・分析から、活動銀河核のエネルギー放射機構やブ ラックホール周辺の質量降着円盤の構造の解明を目指す。また、補償光学系を併用した偏 光撮像・分光観測により、ダストトーラスと呼ばれる降着円盤より外側の領域の幾何学的 構造や物質組成・密度などの解明も目指す。
更新日: 2022/09/06