氏 名 | 山本 薫(やまもと かおる) |
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職 名 | 准教授 |
連絡先 | (E-mail)yamamoto@dap.ous.ac.jp |
(tel&Fax)086-256-9470(ダイヤルイン) | |
研究課題 | 有機物を中心とする分子性結晶から新しいタイプの強誘電体を探索し新機能の開拓を行う。 |
キーワード | 機能性分子固体,有機エレクトニクス,強誘電体,有機伝導体,非線形光学顕微鏡,赤外・ラマン分光 他 |
研究の背景
有機分子は炭素などの原子の間で対つくる電子によって骨組みされています。どの電子もこの骨組の中にしっかりとどまっており,出入りさせることは容易ではありません。このためその集合体である有機固体は電気を流しにくく,元来,代表的な絶縁体と考えられていました。
ノーベル賞を受賞された白川先生を初めとする科学者はこのような常識に果敢に挑戦しました。神の仕業を夢見た中世・古代の錬金術は失敗に終わりましたが,量子力学を手にした20世紀の科学者は,絶縁体であるべき有機物を,電気を流す伝導体に転化させることに成功したのです。
以来,分子性の伝導体研究は大きな発展を遂げ,現在では銅などの金属並みの伝導性を示す物質や,電気抵抗がゼロとなる超伝導体も数多く合成されるに至っています。最近,身の回りに現れ始めたELディスプレー等などの有機デバイスは,こうした研究の成果の一端であり,電気を流す有機物の存在はもはや常識になったと言っていいかもしれません。
我々は,このような常識に再チャレンジを仕掛けてようとしています。つまり,当然,電気を流すであろう有機物から絶縁体を見つけようとしているのです。ただし,かなり風変わりな,という条件つきの・・・。
研究のねらい
電気を流す資格をもちながら絶縁体として振る舞う一部の有機物中では,電気伝導を担うはずの電子がちょうど凍った水のように結晶となって動けなくなっています。我々は,このような物質の中で,凍結(結晶化)した電子の配列が結晶における分子配置に一致しない物質に注目しています。このような物質で電子が凍結をおこすと,分子と電子の配列の違いによっては,元々は上も下もなかった結晶にその区別が現れることになります。
単一の物質であるにも関わらず上と下の区別がある物といえば磁石が思い起こされますね。その電気バージョン,電池のようにプラスとマイナスの分極を発現する物質も,限られた数ではあるものの存在します。強誘電体とよばれるこうした物質群は磁石の代替物質としてメモリーへの応用が期待されているなど,多彩な機能で注目されているのです。
上で述べた電子が結晶化した有機導体はこれら風変わりな物質の仲間になりますが,さらに“かなり”と断り書きしたのは,通常の強誘電体の場合,電気分極は結晶中におけるイオンの変位によって発生するのに対し,これらの有機導体では伝導電子の結晶化で分極しているので特別な性質を示すと期待できるからです。
たとえば強誘電体の分極の向きを操ってコンピューターをつくるとしましょう。通常の強誘電体では結晶中でイオンを動かすことになりますが,我々が注目している有機伝導体の強誘電体の場合,制御するのはイオンにくらべ1000倍以上軽い電子ということになります。駆動速度はそろばんと電卓ほど違うことでしょう。実現できれば,桁違いに高速なコンピューターを実現できるかもしれません。
研究手法と修得できるスキル
このような電子型の強誘電体は有機物以外の化合物を含めまだ提案段階の全く新しい物質群で,その性質は未解明です。我々はこのような物質を探索するために,主に光を使った実験により電荷の局所的な偏りや巨視的な電気分極の観測を目指します。前者は赤外・ラマン分光による分子の局所構造解析によってアプローチします。後者については電気分極の発生に伴う微少電流測定や,非線形光学や偏光解析を駆使して行います。これらの研究により新たな強誘電体を発見したり,電子型強誘電体に特有な機能性を開拓することが狙いです。
実験はほぼ全て自作装置を用いて行うので,ゼミ生となったみなさんは,固体物性の基礎を修得すると同時に,光学・電気測定の基礎知識や装置制御にかかわるプログラミング技術等のスキルを獲得出来るでしょう。