(1)E'1中心の生成と消滅

 

 石英の常磁性格子欠陥は必ずしも独立に生成、消滅するとは限らず、その過程においてお互いに電子をやり取りし、そのために一見複雑に見える挙動をすることを明らかにした。特に酸素空格子と関連する常磁性格子欠陥(E'1中心)は、これまで考えられてきたように単純に自然放射線によって増大するのでなく、その生成には、その前駆体である反磁性の状態も含めた酸素空格子全体の量を考慮しなくてはならないことがわかった。つまり、酸素空格子中に不対電子が1個存在するE'1中心は、300℃までの加熱によって増大するが、この最大となった値が酸素空格子全体の量を示す値であり、この量によってE'1中心の最大値は規定されてしまう。 

 

 

 

(2)酸素空格子の生成と消滅

  

 この、加熱によってE'1中心の信号強度を最大にする方法を用いて、加熱による酸素空格子の熱安定性を調べた。その結果、酸素空格子は他の常磁性格子欠陥とちがって熱的に非常に安定であり、地球史全体の年代範囲の議論に用いられる可能性を示した。E'1中心の信号強度が、10Maから 1Gaの花崗岩、火山岩について年代と相関があり、その原因として、E'1中心が石英中のα反跳核種によって生成するためであるとされていた。私は、このみかけの相関は、酸素空格子量に対する常磁性状態(E'1中心)の比が大きくなるためではなく、酸素空格子自体の量が年代とともに増大していることを示し、さらに、α反跳核種だけでなく、石英外部から長い年月にわたって大量に照射されたβ線、γ線によっても生成することを実験的に示した。むしろ、β線、γ線によって生成したと考える方が、定量的に合うことも示した。 

 

 

 

(3)石器の加熱温度の推定

  

 E'1中心の量の酸素空格子を示す量(300℃加熱時の最大値)対する比が、温度の関数になることを利用して、石器の加熱温度の推定を行った。13世紀のアメリカインディアンの用いた石器を加熱されているもの、されていないものを区別し、その用途との関連から、一旦使用された石器が加熱され、別の用途に再利用されていたという説を支持する議論を行った。 

 

 

 

(4)第四紀のテフラの年代測定

  

 石英中の珪素を置き換えて不純物として存在しているアルミニウム、チタンに関連したESR信号を用いて、アメリカ、ニューメキシコ州バイアスカルデラ付近のテフラの年代測定を行った。これまでの、大きくばらつくK−Ar年代やフィッション・トラック年代より大幅に若い年代が得られ、火山活動がこれまで考えられてきたよりはるかに最近まで起こっていたことを示した。私たちの年代をもとに、火山防災上の議論が現在なされている。 同様の信号を用いて、宮城県高森遺跡関連のテフラの年代測定を行った。その結果、石器の出土した層序の年代が、これまで日本にいた人類の最古の年代よりはるかに古い年代であることがわかった。 

 

 

 

(5)歯のエナメルを用いた被曝線量の測定法の改良

  

 ヒドロキシアパタイトでできている、歯のエナメルを用いて、ESR測定によって個人の集積被曝線量を求める研究は、チェルノブイリの原子力発電所事故に関連して、近年注目され、盛んに行われてきている。しかし、ESR信号には線量計測に妨害となる有機物の信号が重なっており、これをどのように取り除くかが問題となってきていた。私は、線量計測に用いる信号、妨害となる信号がそれぞれ既知であれば、行列を用いて数学的に分離できることを示し、この方法で、実際にチェルノブイリ事故に関連した歯のエナメルの被曝線量を求めた。この方法の特長は誤差を定量的に評価できることであり、この誤差の大きさが最小検出可能線量であるとすれば、それが120mGy程度であることを示した。 

 

 

 

(6)E1'中心を用いた年代測定の問題点

  

 断層やフリントのESR年代測定は、E1'中心を用いて議論されることが多かった。しかし、γ線照射によって生成する花崗岩中のE1'中心の信号形、熱安定性を注意深く調べた結果、熱的に不安定な「にせ」の信号が重なっていることを明らかにした。フリントでE1'中心を用いて年代測定を行った場合に若い年代が出てしまうことは、この信号で説明できる。また、γ線照射を行ったカリフォルニアの断層粘土の石英についてもこの信号が確認された。根本的にESR信号を詳細に検討しなおす必要があることを示した。 

 

 

 

(7)その他 

  

 ポリカーボネート上に記録されるαトラックの生成についての性質についての実験、及びこのα トラックを用いた、神戸商船大学で開発された測定装置による、空気中のラドンの測定を行う学生実験のテーマの企画及び実施をした。地震波に関連して、金属中の音波の速度を計測する学生実験についても企画に協力した。